うつ病・不安障害日記

毒親の両親に育てられ、成人後ひどいうつ病を発症した毒子日記です。

「自分以上になろうとすることが最大の罪」

臨床心理学者として高名なユングは、世の中の理として、物事のバランスが保たれていることが大切であるとし、人の最大の罪は「自分以上になろうとすることである」と言った。

 これは、人はみな、「能力相応に生きなければならない」、ということであると思うが、これをさらに私なり掘り下げて考えてみた。結果、「人はすべからく平等である」という結論に達した。

 世の中は、不平等で満ち溢れているように思える。周りの人と比較してみれば、自分ばかりが理不尽に損を被っているように思えてしまう。どうして自分はこんな不幸な星のもとに生まれてしまったのだろうと思うこともある。病気になどなったら特にそうであろう。

 ユングは、人は最大限に忍耐をして、自分の能力相応に生きることが必要であると説いているのだと思う。つらい思いをして努力をして、初めて、人は自分の能力相応の人生を手に入れることができる。苦しみなくしてこれを手に入れることはできない。

 人によって能力にはばらつきがある。能力の低い人の中には、自分で自分のことをまかなって生きることさえもままならないのに、そのことをおざなりにして、背伸びをして人生を送ろうとする人もいるかもしれない。逆に、人並み以上の能力を持ち合わせていて、自分がこの世を生きていくのにさして苦労を必要としないのに、自分の人生を楽に生きることだけを考えている人もいるかもしれない。

 こういう人たちがそのままに生きていれば、当然の帰結として、能力に比し、バランスの欠いた人生になり、そのバランスを取り戻そうとして、人生にいろいろなことが起こってくる。ありのままの自分を受け入れられず、背伸びをしようとする人はうつ病になるかもしれないし、人並み以上の能力を持っている人は、他の多くの人を抱える器を持っているので、世の中の多くの人を助ける役割を自然と与えられるようになる。彼らは世の中を変えるような役割を果たさなければならならい運命を背負わされることもあり、そのために悲惨な人生をたどることもある。歴史上重要な役割を果たした人物の多くがそうであろう。彼らは能力が高いにもかかわらず、苦労ばかりの人生である。時代を終えるために武士たちの想いを背負って死んだ明治維新の時の西郷隆盛を思い出す。

 能力の低い人は他人に助けてもらいながら自分一人が自立して生きられることをめざして初めてバランスのとれた人生になる。仮に精神的にあるいは何らかの物理的に誰かに頼らなければならないとしてもそのような自分を受け入れなければならない。そのような自分を自覚できないときに、うつ病になる。そして、人並み以上の能力を有した人はそれを自分の人生のためだけに使うのではなく、他者に還元しなければならない。
  
 いずれにしても険しい道のりである。能力が低い自分をありのままに認めることは、うつ病になって否認した方がましであるくらいに難しいことであるし(うつ病はありのままの自分を受け入れられない”否認”の病である)、高い人は、他の人のために自分の能力を使わなければ、さして苦労もなく楽に生きられるからだ。
 
 能力に差はあれど、苦労する量を比べれば、みな平等なのだ。能力の低い人は、人々の思いを背負ったり、時代を変えるための役割など与えられないのだから、人に頼っていいのだから、能力の高い人に比べてある意味楽なのだ。謙虚な気持ちでほとんど人に頼るように生きたとしても、人生からしっぺ返しなど食らわない。しっぺ返しを食らうのは背伸びをしようとするときである(うつ病になる)。問題はそのような自分を受け入れられるかどうかというところにあるのだろう。
 
 幼いころから努力しなくても周りからなんでも与えらえ、親から精神的自立も進んでいない人は、一般的に見たら恵まれた人であるが、彼らが持つ最大の欠陥は、苦しみを乗り越えることでしか得られない自己評価の高さや自信というものを、自分の内に育むことができていない点である。彼らの中には、致命的に自己評価の低い人が多いものである。
 
 うつ病になったということは、親(の価値観)から精神的に自立して、考えて苦労して自分自身の価値観を打ち立て、自分が等身大の自分のままで、自分以上にならずに、生きていくチャンスを得たということである。
 うつ病であるということ、これを克服するということは、先の見えない激しい闘いである。しかしこれは本来、必要な苦労なのである。この苦労の後に、私たちは、きっと、等身大の自分で生きるという、本来の生き方を獲得することを許されるのである。
 でもね、この先の見えない闘いという苦労は、うつ病の人だけが直面する課題じゃなくて、本当はみんな別の形でやってるんだよ。目に見えないだけで。生きるか死ぬかをさまよったうつ病の私がそう思うのだから、本当だよ。だから「自分だけどうして」なんて思わなくていい。苦しみは平等に与えられている。